○バリデーション基準について
(平成七年三月一日)
(薬発第一五八号)
(各都道府県知事あて厚生省薬務局長通知)
医薬品の製造管理及び品質管理規則(平成六年厚生省令第三号。以下「管理規則」という。)に規定す るバリデーションについては、平成八年四月一日から施行されることとされている。その詳細については、平成六年三月三一日付薬発第三三三号薬務局長通知 「薬事法及び医薬品副作用被害救済・研究振興基金法の一部を改正する法律の施行について」第一一2(10)において別に基準を示すこととされているところ であり、今般、以下のとおり「バリデーション基準」及び「バリデーション基準の運用について」を定めたので、貴管下関係業者に対する周知徹底及び指導に遺 憾のないよう格段のご配慮を煩わせたい。
第一 バリデーション基準
1 適用の範囲及び実施時期について
この基準が適用される範囲及び適用時期は、次のア及びイのとおりとする。
ア 適用される範囲
この基準は、医薬品の製造管理及び品質管理規則(平成六年厚生省令第三号。以下「管理規則」という。)第一条第四項、第三条第一項第三号、第九条及び第十条の規定に基づきバリデーションに関する業務を実施する場合に適用する。
イ 実施時期
この基準は、平成八年四月一日以降、新たに業許可(業許可更新を含む。)又は品目追加(変更)許可を取得するものについて、適用するものであること。
2 バリデーションの目的
バリデーションは、製造所の構造設備並びに手順、工程その他の製造管理及び品質管理の方法(以下 「製造手順等」という。)が期待される結果を与えることを検証し、これを文書とすることによって、目的とする品質に適合する医薬品を恒常的に製造できるよ うにすることを目的とする。
3 定義
(1) この基準で「期待される結果」とは、目的とする品質の医薬品を製造するため、個々の設備、工程、中間製品(原薬の場合は中間体。以下同じ。)及び製品が満たすべき具体的かつ検証可能な規格又は基準をいう。
(2) この基準で「製造を支援するシステム」とは、製造用水供給システム及び空調処理システムをいう。
(3) この基準で「設備の適格性の確認」とは、製造設備、計測器、製造環境制御設備等の設備が適切に選定され、正しく据え付けられ、設定された仕様に適合して稼働することを設備の据付時及び保守点検時に確認することをいう。
(4) この基準で「校正」とは、必要とされる精度を考慮し、適切な標準器や標準試料等を用いて製造行為中に使用される計測器の表す値と真の値との関係を求めることをいう。
(5) この基準で「稼働性能適格性の確認」とは、チャレンジテスト等の手法により、製造手順等が、予想される操作条件の範囲全体にわたり、意図したとおり稼働すること(期待される結果を達成していること。)を確認することをいう。
(6) この基準で「チャレンジテスト」とは、ワーストケースでも期待される結果を達成していることを確認することをいう。
(7) この基準で「ワーストケース」とは、標準操作手順の範囲内での工程許容条件の上限又は下限をいう。
(8) この基準で「実生産規模での確認」とは、稼働性能適格性の確認の最終段階で、当該製造所の構 造設備等を用いて、個々の設備、工程、中間製品及び製品の品質等が期待される結果を達成していることを、原則三ロット実生産規模でバルク製品を製造するこ とによって確認することをいう。
(9) この基準で「バルク製品」とは、製造工程のうち、直接の容器への表示又は包装以外の製造工程を全て終えた中間製品をいう。
(10) この基準で「予測的バリデーション」とは、工業化研究の結果や類似品目に対する過去の製造 実績等に基づき、この基準4に示す実施対象の各々について、医薬品の品質に影響を及ぼす変動要因(原料及び資材の物性、操作条件等。以下単に「変動要因」 という。)を特定し、その変動要因に対する許容条件が目的とする品質に適合する医薬品を恒常的に製造するために妥当であることを検証することをいう。
(11) この基準で「同時的バリデーション」とは、製造許可取得後、実際に医薬品を製造する場合に日常的に実施するバリデーションで、変動要因が許容条件内であることを工程管理等により確認することをいう。
(12) この基準で「変更時の再バリデーション」とは、医薬品の品質に大きな影響を及ぼす原料、資 材、手順、製造工程及び構造設備の変更をした場合に実施するバリデーションで、予測的バリデーションの場合と同様に、変動要因を特定しその変動要因に対す る許容条件が目的とする品質に適合する医薬品を恒常的に製造するために妥当であることを検証することをいう。
(13) この基準で「定期的な再バリデーション」とは、工程の性質や医薬品の品質への経時的な影響 を定期的に再確認するために実施するバリデーションで、製造頻度、同時的バリデーション及び回顧的バリデーションの結果等を考慮して実施時期及び実施項目 を定め、変動要因やその許容条件が引き続き目的とする品質に適合する医薬品を恒常的に製造するために妥当であることを検証することをいう。
(14) この基準で「回顧的バリデーション」とは、定期的な再バリデーション等の実施時期及び実施項目を設定するため、それ以前の試験検査に関するデータ及び製造記録を統計学的方法等により解析することをいう。
4 実施対象
製造業者は、原則として次の各号に掲げる項目を対象として該当する品目の製造手順等のバリデーショ ンを実施しなければならない。イ及びウについては、設備又は機器単位ごとに実施しても差し支えなく、また、ウについては、合理的な根拠に基づき、指標とな る成分のみをもって評価しても差し支えない。
ア 製造工程
イ 製造を支援するシステム
ウ 洗浄等の作業
5 バリデーション手順書
(1) バリデーション手順書には次に掲げる事項が定められなければならない。
ア 管理規則第十条第一項に規定する製造業者があらかじめ指定した者(以下「バリデーション責任者」という。)の業務範囲及び権限に関する事項
イ この基準6(2)で定める各バリデーションの実施時期(タイミング)に関する事項
ウ この基準6(1)に定める計画書の作成、変更及び承認等に関する事項
エ バリデーション実施結果の報告、評価及び承認(記録方法も含む。)に関する事項
オ バリデーションに関する書類の保管に関する事項
カ その他必要とする事項
(2) バリデーション手順書は、この基準4に示す実施対象に対して、この基準6の規定に適合するように作成されていなければならない。
(3) バリデーション手順書には、制定者及び制定年月日並びに改訂した場合には改訂者、改訂年月日、改訂事項及び改訂理由を記載しなければならない。
(4) 製造業者は、バリデーション手順書の内容についての改廃に係る手続きを明確にしたうえで、バリデーション手順書を適切に管理しなければならない。
6 バリデーション責任者の責務
バリデーション責任者は、バリデーション手順書に基づき、次の各号に掲げる業務を行わなければならない。
(1) バリデーション手順書に基づき製造しようとする品目について、製造手順等に関してバリデー ションの実施計画書(以下「計画書」という。)を作成すること。計画書には、バリデーションの実施内容を考慮したうえで、次の事項を定めなければならな い。ただし、同時的バリデーションのうち日常的工程管理については、製品標準書(作業手順書を含む。以下同じ。)に明確に規定されており、かつ、バリデー ション手順書に製品標準書の規定に基づき実施する旨記載されておれば、この限りでない。
ア 項目
イ 当該項目のバリデーションの目的(バリデーション全体の目的を含む。)
ウ 当該製造手順等の期待される結果
エ 検証の方法(検証結果の評価方法を含む。)
オ 検証の実施期間
カ バリデーションを行う者(担当者)の氏名
キ 計画書の作成者及び作成年月日並びに改訂した場合には改訂者、改訂年月日、改訂事項及び改訂理由
ク その他必要とする事項
(2) 前号に定める計画書に従い、次のバリデーションを実施すること。
ア 製造業許可及び製造品目追加(変更)許可を取得する際に実施するバリデーション
予測的バリデーション(予測的バリデーションの実施項目は別表1を参照。)
イ 製造業許可更新時までに実施するバリデーション

別表2に規定する各バリデーション
(3) バリデーションの結果を判定し、期待される結果を達成していることを確認すること。
(4) その他管理規則第一〇条に規定する業務
7 適用の特例
次に掲げる医薬品については、この基準の適用を除外し、別途バリデーション基準を定めるものとする。
(1) 麻薬を原料として使用する医薬品
(2) ロットを構成しない血液製剤
(3) 薬事法第四三条第一項等の規定による検定を受けるべき医薬品、手数料、検定基準及び試験品の数量を定める件(昭和三八年厚生省告示第二七九号)中2において、中間段階における検定基準が定められている医薬品
(4) その他特に指定する医薬品
第二 バリデーション基準の運用について
1 既許可品目の取扱いについて
既許可品目(平成八年三月三一日までに許可を取得した品目をいう。)であって、引き続き製造するものについての取扱いは以下のとおりとする。
(1) 実生産規模での確認
予測的バリデーションが行われていない品目については、実際に当該品目を製造する際に、あわせて実 生産規模での確認(原則三ロット)を実施すること。製造業許可更新時までに製造予定がない場合には、予め実施項目を定め、その計画をバリデーション手順書 に記載しておくこと。なお、実施の際には、合理的な根拠に基づき、グループ化することや指標となる成分のみをもって評価しても差し支えない。
おって、品目ごとに、過去の試験検査に関するデータ及び製造記録を統計学的な方法等により解析することをもって、製造工程が適切であることの確認が可能な場合には、この限りでない。
(2) 再バリデーション
ア 変更時の再バリデーション
平成八年四月一日以降に原料、資材、手順、製造工程及び構造設備を変更した場合であって、その変更が医薬品の品質に影響を及ぼす可能性がある場合には、別表2に基づき実施すること。
イ 定期的な再バリデーション
同時的バリデーション及び回顧的バリデーションのデータ数が不十分なため、傾向の解析ができず、実施時期及び実施項目がまだ確定していない場合には、バリデーション手順書に実施時期、実施項目及び検証に関する事項の設定の手順を示しておくこと。
(3) 回顧的バリデーション
統計学的な方法等により解析を行うのに十分なデータがない場合には、データを収集し、十分なデータが集まった時点で行えるようバリデーション手順書においてそれらの実施手順を規定しておくこと。
(4) 実施対象
バリデーションは、バリデーション基準4に示す対象について実施するものであるが、医薬品の品質に 影響を及ぼす可能性がある変更(原料、資材、手順、製造工程及び構造設備等の変更)がない場合には、製剤の特性を考慮し、製品の品質に及ぼす影響の大きい 製造工程(以下「重要工程」という。別表3の例を参考にすること。)についてのみ実施することで差し支えなく、必ずしも全工程を対象に行う必要はない。
2 バルク製品の取扱いについて
許可前に行う実生産規模での確認を実施した場合、製造したバルク製品は、承認・許可を取得後、以後の製造工程を実施し、かつ、承認(許可)規格に適合していることを確認の上、製品として出荷しても差し支えない。
3 通知の改正について
「薬事法及び医薬品副作用被害救済・研究振興基金法の一部を改正する法律の施行について」(平成六年三月三一日薬発第三三三号)の記の第一一2(9)及び(10)の一部を次のとおり改正する。
次のよう〔略〕

別表1
予測的バリデーションの実施項目
1 設備の据付時における設備の適格性の確認
2 校正
3 稼働性能適格性の確認
4 実生産規模での確認

別表2
製造業許可更新の要件となるバリデーション
 
製造許可取得後、業許可更新までに実施するバリデーション
同時的バリデーション
変更時の再バリデーション
定期的な再バリデーション
回顧的バリデーション
日常的工程管理等の実施
設備変更時における設備の適格性の確認
計測機器変更時の校正
変更に係る稼働性能適格性の確認
変更に係る実生産規模での確認*1
保守点検時における設備の適格性の確認
計測機器定期点検時の校正
稼働性能適格性の確認
過去の製造管理及び品質管理の実績の解析評価
製剤・原薬
無菌性及び非発熱性*2
×
その他の品質*3
×
注)
・〇印は、必須提示項目
・△印は、医薬品の品質に影響を及ぼす可能性のある場合に適用
・×印は、提示不必要の項目
・*1は、製造承認事項一部変更承認(以下「一変」という。)申請が必要な場合には、次によること。
(1) 一変が承認される前に確認を行う場合には、バルク製品を生産すること。
(2) 一変が承認された後に確認を行う場合には、製品を生産すること。
・*2は、無菌性及び非発熱性に関わる構造設備、手順、工程等
・*3は、無菌性及び非発熱性以外の品質に関わる構造設備、手順、工程等

別表3
重要工程の例
剤形\品質特性
無菌性
含量均一性
溶出性
純度及び結晶形
無菌製剤
最終滅菌製剤
滅菌工程
溶解工程
混合・溶解工程
充填工程
   
無菌操作製剤
無菌操作工程
ろ過滅菌工程
無菌充填工程
凍結乾燥工程
溶解工程
混合・溶解工程
充填工程
   
固形製剤
 
混合工程
造粒工程
打錠工程
充填工程
打錠工程
造粒工程
 
液剤
 
溶解工程
混合・溶解工程
充填工程
   
軟膏剤、坐剤、パップ剤
 
練合工程
充填工程
展延工程
   
原薬
     
最終精製工程
無菌原薬
滅菌工程
無菌操作工程
   
最終精製工程